マーケティングリサーチでよく用いられる定性調査としては、グループインタビューやデプスインタビュー、エスノグラフィー(訪問観察調査)などが挙げられます。この記事ではエスノグラフィーとはどのような調査か、実施する流れや、具体的な活用事例などをお伝えします。
また、エスノグラフィーについて動画で知識を深めたい方は、下記のアーカイブをぜひご覧ください。
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エスノグラフィーとは
エスノグラフィー(訪問観察調査)とは、定性調査の一種であり、顧客の生活環境に調査員が身を置いて顧客と行動を共にすることで、顧客のことを深く知る調査手法をいいます。エスノグラフィーはギリシア語のethnos(民族)、graphein(記述)に由来し、もともとは文化人類学や民族学の分野で主に用いられてきた研究手法でした。調査対象となる民族の文化を解き明かすことを目的として、その土地の風習、行動様式などを詳細に記録するのです。
エスノグラフィーは、近年では新たな課題を発見する手段として、マーケティングをはじめ、人材育成やマネジメントなど、ビジネスの分野にも取り入れられるようになりました。顧客の購買行動は潜在意識に基づいて実行されることが多く、顧客本人であっても言語化が難しいことが往々にしてあります。エスノグラフィーによって顧客の普段の行動や言動を観察することで、新たなニーズや課題を探る手段となるのです。
インタビューやアンケートでは顧客の顕在化したニーズについて直接伺うことができますが、エスノグラフィーでは被験者の日常の行動や何気ない言動を観察する中で、潜在ニーズを探り、意思決定に至るまでの過程を把握することを目的として行われます。
エスノグラフィーの使いどころ
まず前提として、エスノグラフィーは実施難易度が高い調査です。観察対象となる人をある一定の期間観察し続ける、または観察対象と一定期間行動を共にする必要があるため、気軽にできる調査ではありません。
では、なぜそれでもエスノグラフィーを行うのか。それは、生活者と行動を共にするからこそ到達できる、深い生活者理解のためです。ターゲットの生活者の琴線に触れるようなマーケティングを行う上で、行動を共にするからこそ窺い知れる領域が確かにあるのです。
エスノグラフィーを行う3つのメリット
続いて、エスノグラフィーを実施するメリットを3つご紹介します。
メリット1|リアリティある情報に多く出会える
たとえば洗濯用洗剤や掃除機、洗濯機などは、日常的に消費者の自宅で使用され、消費者の生活と密接に関わり合う製品です。実際の現場でどのような利用のされ方をしているか、企業のきれいな会議室で考えていても、なかなかリアリティを持って理解することはできません。エスノグラフィーの大きなメリットとしては、実際に消費者の生活や自宅の環境を目で見て、製品の課題や強みを確認できる点にあるといえます。
メリット2|潜在ニーズや新しい仮説を発見できる
エスノグラフィーのメリットとして、固定観念に捉われず、新しい視点で潜在ニーズや仮説を発見できることも挙げられます。たとえば食料品ブランドのHEINZ(ハインツ)のケチャップのボトルはキャップが下にあり、上下が逆さまになって売られています。これは調査員が消費者の自宅を訪れて観察した際、入れ物を逆さまにして底を叩きながらケチャップを取り出しているということがわかり、「予め逆さまになっているケチャップのボトル」という潜在的なニーズの発見に至ったといわれています。さらに、ケチャップの残りが少なくなってきた消費者は、逆さにして冷蔵庫で保管していたのです。中身が満タンのケチャップを眺めているだけでは得られなかった発見といえるでしょう。
メリット3|消費行動に至る背景を理解できる
商品・サービスの評価は売上という数値に表れます。しかし、売上が良かったとしても悪かったとしても、なぜ購買に至ったのか・至らなかったのかといった背景は、顧客の心理を調査する側が読み取って想像しなければなりません。エスノグラフィーを行えば、その製品を消費者がどのように利用しているのか、なぜ利用しているのかを、消費者の行動や置かれている環境から、より具体的に想像して理解することができます。消費行動に至る背景を探る材料が、エスノグラフィーでは豊富に揃うのです。
エスノグラフィーを実施する流れ
次に、エスノグラフィーを実施する流れをご説明します
1. 調査設計
まずは調査の目的に沿って、どのような調査対象者を抽出したいか、どのような生活状況に寄り添うか、そして得た情報をどう活用するかなど、調査の設計を行います。何を明らかにすべきか仮説を立てて臨むケースと仮説がない状態から受け入れるケースの両方があります。
2. 調査対象者の募集と選定
調査対象者を選定します。通常のマーケティング調査では、一般的な方を対象として行われますが、エスノグラフィーではヘビーユーザーやアンチユーザーなど、極端な思考を持つユーザーに対して行われる場合もあります。そのようなユーザーの深層心理からヒントを得て、多数派の一般の方々をより強く動かすものは何なのかを探れる期待が持てるためです。
3. 調査の実施
調査対象者のご自宅など、私生活の環境に調査員が赴き、行動の観察を行います。写真や動画の撮影をしたり、適宜インタビューをおこないます。
エスノグラフィーによって明らかにできる項目としては、以下が挙げられます。
・消費者の潜在的なニーズにつなげられる根拠
・ターゲットとなる消費者の価値観、ライフスタイル
・製品・サービスが利用される環境とそこにある課題・困難
・製品・サービスが利用されている最中やその前後に行われる消費者の行動 など
4. 調査結果の認識合わせ
観察した際の映像記録を見せながら、現場で見聞きした情報を調査員から関係者へ共有します。仮説と照らし合わせながらディスカッションを重ね、結論へと導きます。
5. 調査結果の集計・レポーティング
分析した定性的な調査結果を、報告書として取りまとめます。エスノグラフィーの結果は新製品のアイディアになったり、コンセプトの策定に活用できたり、ターゲットとなるペルソナ像を明らかにしたりと、さまざまなマーケティング活動へと役立てられます。
エスノグラフィーの事例紹介
次に、弊社でエスノグラフィーを実施いただき、商品開発に活用いただいた事例を紹介いたします。
弊社では、エスノグラフィーを取入れた商品開発のサービス「インサイト・ドリブン」を提供しております。
■株式会社セブン&アイ・ホールディングス様
<事例概要>
- 様々なカテゴリーのブランディングを行っている中で、競合他社のPBと「同質化」しているという課題があった
- エスノグラフィーを実施したことで、これまで見えてなかった課題や発見があった
- エスノグラフィーで得た情報を、ワークショップでインプット・意見交換をして今後の方針を決定した
- 結果、課題を持っていたカテゴリーのリブランディングのヒントを得ることができ、商品開発に活用することができた
エクストリームユーザーについての詳細は、下記コラムをご覧ください。
エクストリームユーザーに詳しい記事を読む
エスノグラフィーの結果をいかに活用するか
先程お伝えしたように、ネオマーケティングでは、エスノグラフィーを商品開発に取り入れたサービス「インサイト・ドリブン」を提供しております。下記の資料では、本サービスを例に、プロダクトアウトではなく、インサイトからモノづくりを行うフローについて紹介しています。ご興味のある方はぜひご覧くださいませ。
また、エスノグラフィーに限らず、定性調査全般的に言えることですが、調査で得た定性情報を活用する難しさは、定量調査の比ではありません。定性情報は人によって解釈が異なるため、当然そこから導き出す仮説や考察も異なります。そのため、関係者で1つの結論を決めて調査結果を活かしていく、ということが難しいのです。わかりやすく、定量的に情報を判断してしまう、とういう罠に陥ってしまうこともよく見られます。
定性情報を効果的に活用するための方法として、ワークショップやデブリーフィングがあります。この2つをいかに適切に実施することができるかで、調査結果活用の成否は大きく左右されます。
最後に
エスノグラフィーでは顧客と同じ環境に身をおくことで、インタビューやアンケートでは炙り出せない、顧客の潜在的なニーズに迫ることができます。ネオマーケティングでは、定性調査を専門としたリサーチャー・プランナーが調査結果の活用まで伴走します。インサイトやニーズに迫り、より深く生活者を理解したいとお考えの際には、ネオマーケティングにご相談ください。 ■エスノグラフィー(訪問観察調査)サービスページを見る