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TOP Marketer Interviewsトップマーケターインタビュー

トップマーケターのインタビューをご紹介します。

マーケティングとは「生活者を起点に考え抜き、感情を動かし、行動を起こさせる提案をすることで問題解決や新価値創造を行うことである」

 髙口 裕之様

はじめに

各界で活躍されているマーケターに「マーケティングとは何か」を聞く本企画。今回は、2017年におやつカンパニーにジョインし、オリジナルベビースターラーメンの市場売上をV字回復に導いた髙口裕之氏にご登場いただきました。

看板商品「ベビースターラーメン」の料理レシピの提案やさまざまなコラボ企画はどう生まれたのか? マーケターとして成功するためには何が必要なのか?話を伺っていくと、髙口氏がマーケターとして第一歩を踏み出したミツカンでの経験にルーツがありました。

営業経験で企画提案した「流通マーケター」の失敗

営業経験で企画提案した「流通マーケター」の失敗


――まずは髙口さんの経歴からお伺いできますか。

食品業界でマーケティングという仕事に長く携わってきましたが、学生時代からビジョンがあったかというと、そういったものはありませんでした。

マーケターになろうなんて考えてもいませんでしたし、もっと言えば食品業界にも特に興味はありませんでした。告白するとミツカンに入社したのも勢いです。(笑)

――勢い、ですか?

バブル期でしたから、私のように遊んでばかりいた学生でも内定をいただきやすかった時代です。ミツカンも内定をいただいた会社のうちの1つでした。

あるとき、アルバイト先の先輩と飲んでいて、私の就活の話題になりました。内定をいただいた企業名を伝えると、お酒が入った先輩たちから「江戸時代から続く老舗企業にお前なんかは似合わない」「どうせ、すぐにやめるに違いない!」と言われて。「そこまで言うなら!」と入社を決めたのです。

今となってはミツカンには感謝しかありません。でも、はじまりはそんな感じだったのです。

――人生わからないものです。

ただ、振り返って考えると、学生時代から、「なぜ、これが流行しているのか?」「ウケている理由はなんだろう?」と考えるのは好きでした。そういう意味ではマーケティングに向いている素地はあったのかもしれません。まぁ、学生時代は遊んでばかりいて、できることなど何もないなかで、唯一そこだけはわかるといった程度ですけど。

――ミツカンに入社し、まず配属されたのは営業部だそうですね。成績はどうでしたか?

営業成績は抜群によかったです(笑)。全社の営業所コンクールで優勝して表彰されたこともありました。営業にとっての“お客さん”は流通です。流通の窓口となるバイヤーさんに、何をどう伝えると買ってくれるのかが自然とわかったのです。学生時代、遊びやアルバイトを通じて、老若男女いろんな人とコミュニケーションをとってきたことが役立ちました。

――27歳でマーケティングに異動になり、マーケター人生がスタートします。

最初に担当したのは、みりんでした。マーケティングのことなど何もわかりませんので、営業時代の経験と知識を使って、小売りのバイヤーに対する企画提案をしていきました。

それは、営業の方に対して「〇ケース仕入れをしていただいたら、これだけインセンティブをつける」といったものが大半で、営業は喜んで売ってくれるし、注文も入りやすいので最初は数字が上がります。でも、その後、パタリと注文が止まってしまうんです。2週間以上注文が入らなかったり、返品されるケースもあったり。(笑)

――在庫があれば、新しい注文は入らないですよね。

その十数年後にマーケティング理論を学び、「ライフ・タイム・バリュー」という言葉と意味を知るわけですが、売上は連綿と続いていくことが大事。売るべき相手は生活者なのに、それを当時の私は本質的に理解していなかった。

当時の私がもっていたのは、バイヤーを喜ばせるための知恵と経験だけ。打ち出す施策もバイヤー向け。当時の私は完全な「流通マーケター」になっていたんです。

――本当の主役は、バイヤーの向こう側にいる「生活者」である。そのことに気づいたきっかけは? 

マーケティング本部の先輩や上司は、もともとは営業の猛者です。私と同じような経験をしてきたわけで、諸先輩からの話を聞き、「なるほど」と。

小売の得意先ももちろん大事。ただ、消費される状況をつくれば、モノが売れ、中間点にいるバイヤーは自然と発注をする。バトンリレーのように注文が上がってくるはずで、それが本来あるべき姿です。

それが正しい形であることは、営業時代からなんとなくわかっていたんです。でも、マーケティング部に異動し、身をもってようやく理解することができました。

ブームを生み、カルチャーをつくる。“レガシー“を残せるのがマーケター

ブームを生み、カルチャーをつくる。“レガシー“を残せるのがマーケター

――「マーケティング」の本質を経験から学んだのですね。

でも、27歳でマーケティングに異動になった時からずっと営業に戻りたいと思っていました。これまでの経験から営業のほうが力を発揮できるのに、いつまでマーケティングなんかやらせるんだろう、と。

当時の仕事のモチベーションになっていたのは、やりがいや楽しさではなく「悔しい」という感情でした。営業のときは負けたことなどなかったけれど、マーケティングはどうにもうまくいかない。「なんとかしてやろう!」という感覚でした。(笑)

―ーマーケティングの仕事に面白さを感じるようになったのはいつですか?

もがいているうちに、「金のごまだれ」や「レトルト鍋つゆ」など、ちょっとしたポテンヒットが出てきて、面白いと感じるようになりました。

食品業界であれば、自分の手掛けたブランドによって食文化が生まれることがあります。マーケティングによって「ブーム」を生んだり、「カルチャー」を創ったりすることができる。役割的に営業ではこういったレガシーを残すことは難しい。見方を変えればマーケティングという仕事は、この世に自分が生きた足跡のようなものを刻める仕事だと思うようになっていきました。

――マーケティングに対する向き合い方が変わったのですね。

その意味でも、マーケティングにどっぷり浸からせてくれたミツカンには感謝でいっぱいです。おそらく漠然と、「髙口はなんかやるだろう」と待っていてくれたのではないかと思っています。(笑)

何事もすぐに適応するなんてことはほとんどありません。新商品がいきなり大ヒットすることが滅多にないように、ある程度の時間をかけて、馴染んで浸透してから結果が出始める。それはヒット商品も人間も同じではないでしょうか。

マーケターに必要な「右脳→左脳→右脳」という思考術

マーケターに必要な「右脳→左脳→右脳」という思考術


――髙口さんがマーケターとして意識してきたことを教えてください。

二つあるのですが、一つは「右脳と左脳のバランス」です。マーケティング部に移って、本社に行くと何をするにしても論理的思考が求められるようになりました。

企画を一つ通すにしても、会議で説明したり承認を取ったりしなくてはいけない。もともと、算数が大嫌いで感覚勝負の右脳型人間の私にとっては、それが本当にめんどうで。

でも、自分が「ウケる!」と思っても、みんなが同じ感覚をもっているとは限りません。「自分は売れると思います!」といっても、根拠もなければ説得力もないわけです。

――“熱い思い”だけではダメ、ですよね。

不特定多数の人に物事を理解してもらうときには、自分の感覚や感性、常識だけをぶつけても、情報が対称になりません。そうしたとき、なぜ売れるかを客観的に数字や事例で組み合わせて、見込みも提示しながら説明しなければ、説得も納得もさせられない。場合によっては、異なった解釈をされることもあります。

そのため、左脳と右脳がバランスよく働くよう、左脳を鍛えることを意識してやりました。

――「バランスよく働く」というのをもう少し、具体的に教えてください。

メンバーには「左から右に脳を使え」と伝えていますが、私自身は「右→左→右」の順番で脳を使っています。おそらく、多くの経験値とそこから抽象化された成功法則を多く知っている熟練したマーケターは皆、この順で考えていると思います。

日常生活の中で直感的に「これ、イケる!」とアイデアが思い浮かぶのは右。そこから左脳にバトンが渡って、左の脳がアイデアを客観的に分解し、論理化し、整理をする。承認が取れたら、もう1回右へ戻してフィニッシュ作業に入ります。最終的に形にするには自由な発想が大事ですから、最後は右脳を働かせるのです。

――なるほど。右→左→右、なのですね。

牧場をイメージしてみてください。牛や馬は自由に伸び伸びと動けたほうがいいですよね。でも、牧場の場所や広さが決まらず、柵がなければ勝手に逃げ出してしまいます。

範囲を決めることが重要で、左脳で場所と面積と角度を決めてあげれば、あとは右脳がその範囲で自在に動けばいいわけです。フレームワークでいう「ポジショニング」のようなものです。

――枠が固定されるからこそ、発想も自由になります。

具体化の段階は、企画者の主義主張や個性、過去の経験も盛り込みながら、企画を色づける重要なステップです。しかし、枠がなければ、「こっちも面白いかも」と動き回って、いつの間にかスタートを見失うことになってしまいます。

左脳と右脳はバランスよく、適宜スイッチングしながら働いていないとバランスの良いマーケティングはできません。意識的に左脳を鍛えてきたので、今では左脳で考えるクセがつきましたが、左右のバランスはかなり自分の中では意識しています。

差別化を邪魔する「常識」や「フツー」を取っ払う

差別化を邪魔する「常識」や「フツー」を取っ払う


――マーケターとして意識してきたこと、もう一つは何でしょうか?

それは「常識に囚われないこと」です。マーケティングには差別化、ユニークさが大切と言われますが、それは翻れば、「今までなかったこと」とも言えます。

今までなかったことをイメージするとき、常識や固定観念が邪魔になることはあるものです。そのため、「フツーは」とか「人にバカにされる」といったことは、いったん外して考えるようにしています。

――「フツー」から外れることは難しいものです。

私自身は真逆で(笑)、「学生は普通、そんなことはしない」なんて言われても完全無視。自分がいい、やりたい、と思うことをやってきました。

人の話を聞くことは大事だけれど、それは、決して「言うことに従う」ことではなく、その上で目的に応じて自分が判断するという感覚が昔からあって。学生時代ですから自分を表現する程度の話ですが、それを貫けたことには充足感がありました。

社会人になりビジネスになると、より強い圧がかかります。会社のリソースを使うわけですから当然ですが、「前例」「実績」「常識」といった、いわゆる「フツー」にこだわっているケースが多いなと感じました。

――組織の「あるある」です。

ビジネスは競争ですから、競合他社も同じようなこと考えています。そこに「フツー」を規範していたら差異は出せません。30年前からすでに、この国では足りないものを求めるというフェーズは終わっています。「必要」ではなく「欲しい」が購買の動機になるし、お金を払ってもいい価値です。

ただ、その「欲しい」を生活者自身、気づいていません。「なんか面白いものないかな」という思いのありかを突き止めて、そのボタンを押すことができれば「欲しい!」となる。それを見つけて、お客さんにお金を払ってもらう、あるいは競合がやらないことを実現するためには、「常識」や「フツー」といった枷を外さなければできません。

「意外性」を軸に展開されるおやつカンパニーの多彩な企画

「意外性」を軸に展開されるおやつカンパニーの多彩な企画


――おやつカンパニーさんでは、「#おやつの常識を超える」戦略を展開中で、老舗酒造やスニーカーブランドとコラボしたり、美術大学と一緒にベビースターでアート作品を制作したり。まさに、「フツー」にとらわれないプロジェクトです。

一つひとつの企画だけ見ると、思いつきやノリでやっているように見えるかもしれませんが、もちろん、そんなことはありません。

ベビースターの認知度は約98%で、既食経験も92〜93%あります。誰もが知っていて、誰もが食べたことがあって、ベビースターが嫌い!という人はほぼいない。けれど、シェアはわずか5%程度でした。

その原因は何かを突き詰めていくと、「思い出しにくいから」だということがわかりました。ネオマーケティングさんと一緒に取り組んでいる「エポークドセット」の問題だということが、左脳によって論理立てられたのです。

――「スナック菓子を食べよう」と思ったとき、生活者にとってベビースターはパッと想起されるブランドではない、と。

では、思い出してもらいやすい存在になるためにどうしたらいいのかというと、まずは目につくことが大切です。だから、企業は目立つところへ広告を出すわけですが……今日、駅前の交差点で見た看板の内容を聞かれ、答えられる人は少ないでしょう。

それは、違和感のないイメージ通りの情報だからです。想像の範疇の中にある情報はスルーされてしまいます。他方で、印象的な情報は記憶にとどまります。「違和感」をつくってあげると、脳にひっかかるのです。
多額の広告が投下できない場合はそれが特にポイントになります。

――だからコラボ企画は“異色“であることが重要なのですね。

コラボレーションする相手先とはたくさんお話をして、悩みを共有しながら企画が立ち上がるのですが、大きな枠組みは同じです。ブランドを想起させる違和感を意外なコラボレーションで印象づけ、かつ、広告費もセーブできる、というロジックです。

「え!」と驚きツィートしたくなる、シェアしたくなる企画であればOK。左脳で定義したその枠の中であれば、自由に発想していい。その結果、日本酒やスニーカーを作ってみようとか、絵を書いてみようといった企画が出てくるわけです。「意外性」という大きなフレームさえ押さえていれば、あとは自由にしています。

――フレームが決まるからこそ、発想も広がりやすくなります。「右→左→右」の話と通じますね。

大事なことは、とてもシンプルです。私はよくメンバーに「具体化と抽象化を繰り返せ」と言っています。成功するポイントは、「一言で言うと?」というところまで削ぎ落とすこと。その“一言“だけを押さえればいいので、打ち手の範囲が広がります。むしろ、具体論ばかりをインプットすると、それにとらわれて、身動きが取れなくなってしまいます。

バスケットボールで言うと「ピボット」ですね。軸足だけ決めれば360度回っていいし、どこへパスを出してもいい。ただ、ピボットフットは絶対に動かさない。軸足がブレたら、トラベリング(目的がズレる)になってしまいますから。(笑)

マーケターとしての成功に必要なのは信じて待ち続ける胆力

マーケターとしての成功に必要なのは信じて待ち続ける胆力


――髙口さんはマーケターとして数々の実績を残してきました。成功の理由を自己分析していただけますか?

右脳と左脳を連携させ、生活者から「いい!」「待っていた!」という言葉が出るであろう、シナリオを描きます。そして、そのシナリオを信じて、ブレることなく続ける。それが、結果につながったのだと思います。

――続けることが大切、だと。

先ほども少し触れましたが、新しいことはそんなにすぐに結果につながりません。基本的に人間は変化を嫌う生きものですから、未知のものに対して警戒します。知ってもらい、理解してもらい、考えてもらい、行動を起こしてもらうまで、ある程度の時間はかかるものです。

「金のごまだれ」やレトルト鍋つゆシリーズは早いほうで、私が手掛けたブランドやプロジェクトは大体、世の中に広がるまで2〜3年かかっていますよ。

――ある程度の時間はかかるのですね。

ターゲットを絞っているとはいえ、何万人、何十万人という人に対して、新しい商品やサービスを届けるわけですから、認知の段階から簡単ではありません。

何度か目にしたり耳にしたりして、ようやく認知をしてもらい、「私にも関係があるのかも」と興味・関心をもってもらう。この第二段階にいくまでだって時間がかかります。

「買ってみようかな?でも、まぁ今度にしよう」なんてこともありつつ、「友達が買ったらしい」というところまでようやくたどり着く。イノベーター理論のようなことが、実際に起こるには時間が必要です。

―ーその間は売上が大きく伸びるわけではありません。

我慢しかありません。もちろん、我慢した先に需要性がないこともある。でも、ギブアップしたら、そこで終わりです。信じたら簡単には諦めない。目の前の数字だけで判断はしない。待っている間、兆候はありますから、それを逃さないことです。

いつも思うのですが、この期間は絶対に必要です。仮に、この期間がないまま認知と普及を実現できるのは、国家権力による強制くらいでしょう。(笑)

――プレッシャーに耐えられず、ギブアップしてしまうブランドマネージャーもたくさんいそうです。

気持ちはわかりますが、もう少し待てばいいのに、と思うこともあります。企画者は当たったら「すごい!」と言われるけれど、外れたら「お前のせいだ!」と言われる。表裏一体で、猛烈なプレッシャーです。胆力が必要ですが、一定の期間までは「いや、まだまだ!」と堪えて待つのも大事な能力だと思っています。

マーケターは“人フェチ“でなければ難しい

マーケターは“人フェチ“でなければ難しい


――髙口さんが考える優秀なマーケターとはどんなマーケターでしょうか。 

生活者の立場に立ち、左脳と右脳を連携させて考えることができる人ですね。これができれば、生活者がどう思っているか? 喜んでもらえるために何をすればいいのか? といった仮説を立て、新しいシナリオを描くことができます。

――では、マーケターに必要なことはなんでしょう?

好奇心旺盛にいろいろな人に会い、場所を訪れ、さまざまなコトやモノを見たり触れたりすることを日常的に行うことです。その積み重ねが、柔らかくしなやかな考え方をつくります。

とくに、流行に接することは不可欠だと思います。自分の趣味嗜好と合うかは別にして、今の流行に接して、人はそれのどこをどう評価しているのかを自分の中で考えるのです。今の時代、人がどんな物差しをもっているのかを肌で感じ続けることは本当に大切です。

言い換えると、“人フェチ“でない人は難しいでしょうね。マーケティングは人間を相手にする仕事ですから、世の中と人間に対して興味がない人は向いていないと思います。

AIの台頭によって求められるのはマーケターの地力

AIの台頭によって求められるのはマーケターの地力


――髙口さんが今、注目しているマーケティングのトレンドを教えてください。

やはりAIの進化ですね。マーケティングで悩んだときに「**の商品をどうしたらいいか?」と聞くだけで、答えがいくつも提示されるところまで技術は進みました。マーケティングの現場でもまずはAIで土台を考えさせて、そこから人間が発想していく、という流れになっていくでしょう。

過去の学習からの予測で基本はカバーできるわけで、同じカテゴリー内でのアイデアはより似通っていくはずです。そうなればなるほど、新しい考え方、価値の創造が重要になります。その生み出し方を人間である我々、マーケターとAIが競う時代がすぐそこに来ていると感じます。

――しかも、AIの進化は著しいです。

最初は土台だけだったのが、7〜8割までAIがカバーするようになるのかもしれません。9割できるようになれば、人間のマーケターは不要になります。そうならないために、地力をつけていく必要があります。マーケター一人ひとりのシナリオの描き方が勝負になるのだと思います。

マーケターとは生活者ファーストで考えぬける人

マーケターとは生活者ファーストで考えぬける人


――髙口さん自身の今後の展望をお聞かせいただけますか? 

今後は一か所にフルコミットするのではなく、複数の環境でマーケティング活動を行っていく予定です。主従はありつつも、さまざまなプロジェクトに実際に関わって、情報や刺激をインパクト強く、体に叩き込んでいきたいと考えています。

――それは、どうしてでしょう?

40代位までは日常生活を送りながら、肌感覚で生活者のトレンドを把握できました。ただ、だんだん感度が鈍る年齢に入ってきているはずです。さまざまな業界の友人と積極的にコミュニケーションをとっているので、比較的、感度は保たれているとは思います。が、人は必ず衰えます。そこに抗うため鍛えるのです。

自分の限られた時間を一つのことに全部当ててしまうと、情報収集の偏りは必ず起こります。多角的にアンテナを張り多様な環境に触れ続けることで、自分を錆びさせず成長させることができるのではないかと考えています。

――最後の質問です。髙口さんにとって「マーケティング」とは?

「生活者を起点に考え抜き、感情を動かし、行動を起こさせる提案をすることで問題解決や新価値創造を行うこと」だと思っています。

具体的な施策については、自分の強みや個性が必要ですが、主役はマーケターではありません。とにかく、生活者ファーストで考えることです。

生活者がどうしたら喜んでくれるのか? どうしたら「助かった」と言ってもらえるのか? それを知るには、人を観察し、話に耳を傾け、深層心理を探りながら、ポイントとなるツボを探すのが入り口です。このスタートラインは大事だと思っています。

――そのためには、生活者の立場に立った想像力、「フツー」や「常識」に囚われない想像力が必要、だと。

うまく、生活者のツボを押すシナリオが描ければ、ある程度の時間を経て「買ってみよう」とアクションを起こしてくれます。お金と交換して購入したものに満足してもらえ、「今までなかったものだよね」って言ってもらえたら、市場が増えたことになります。

――マーケターは市場をつくることもできる。

商品を手に入れて生活者が喜び、市場が増えたことで経済にプラスに働き、そして、提案した企業・人にも利益になる。まさに、「三方よし」です。こうした状況をプロデュースするのがマーケターの仕事です。

「今の時代、生活者に聞いてもわからないのだから、自分たちがやりたいことをみつけたほうがいい」という考え方もあります。そうした意見を否定はしません。否定はしないけれど、ただ、「マーケター」は市場――生活者から考えていく人であらねばならない。私はそう思っています。


Profile
髙口 裕之氏
株式会社おやつカンパニー 
取締役 専務執行役員 マーケティング本部長

1992年にミツカンに入社。営業を経て、みりんやたれなどのブランドマネジャーを務める。「レトルト鍋つゆ」シリーズや「金のごまだれ」などのブランドを開発し、その後、食酢カテゴリーマーケティングを統括。
ミツカン退社後は、食品マーケティングコンサルタント、日系PEファンド投資先食品メーカー、フードレーベルセールス代表取締役などでキャリアを積み、2017年、米系PEファンド投資先であったおやつカンパニーに参画。マーケティングを導入し、料理レシピの提案、異業種とのコラボなどを手掛け、オリジナルベビースターラーメン市場売上のV字回復の立役者となる。

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